No.695 後継
先日、千年経営研究会の月例会がオンラインにて開催されました。
月例会では、参加者がそれぞれ近況報告を行い、それに対して全員で喧々諤々の意見交換をしています。私にとっても、とても有意義なひとときとなっています。
その中で、ある技術系企業の社長の発表に対する検討内容が、みなさんにも参考にしていただける点があるのではないかと思い、ご紹介したいと思います。
その内容は、ご子息が入社されたものの、本業では少々伸び悩んでいたところ、総務経理の仕事をさせてみたら、これが水に合っていたようで、イキイキと仕事をし始めた、というものでした。
技術者である本人としては、少々残念そうではありましたが、それでも息子が喜んで仕事をしている姿には、親として喜びを感じられているようです。
社長は、自分に力がなければできる社員さんを雇えばよいのですから、技術系の会社だからといって、後継者が高い技術を有していなければならないということはありません。その点、この会社では、優秀な技術後継者の見込みが立っているとのことでしたので、悪くない話だと思います。
8年前にお亡くなりになった月桂冠株式会社の元相談役 大倉敬一氏は、お父様兄弟が製造と営業をがっちり守られている中、自らの「数字に強い」という特性を活かすため、大学卒業後に銀行に入り、4年の修行の後に入社、その22年後にきちんと社長を継がれています。
現社長で、敬一氏の長男・治彦氏も銀行経由での入社ですから、ある意味、その流れを作ったともいえるのかもしれません。
但し、社長に才能がなければ人を雇えばいいのですが、どんなにいい人が入ってくれたとしても、社長に“徳”がなければついて来てはくれません。
そこで、彼には次のようなアドバイスをしました。
- 時間を管理する
事務仕事は、いくらでも時間をかけることができます。少なくとも、ダラダラ仕事をする姿は、何より社員のやる気を失わせます。「どんな仕事に何時間かかったか?」を常に明確にさせるとこが大切です。 - 現場の問題点を事務の視点で明確にする
現場にいると気付かないが、事務所から見たら明らかにできる問題があるはずです。そういう視点で仕事をすれば、たとえ実務ができなくても、会社をよりよくしていくことができます。それこそが社長の仕事といえるでしょう。 - おじいちゃんから“盗む”
そうはいっても、現場のことを全く知らないでは共感が得られないでしょう。この会社は、先代がまだ現役とのことでしたので、事務仕事の手が空いた時には、常におじい様の近くで仕事をし、「何かを盗め」と指示をする。その内容は何でも構いません。“盗む”という姿勢そのものが大切です。それが、現場への共感を生むことになると思います。
技術職の社長の場合、どうしても「後継者は技術者で」との思い込みがあるように思います。しかし社長の後継者は、経営の舵取りがきちんとできればよい。その視点に立って、後継者の天性、天分を活かせるようにするのが、譲る者の務めだと思います。