No.732 親子
先日、20年来のお付き合いのある社長からお呼び出しをいただきました。「亀井さんに会わせたいのがいる」とお連れになったのはご子息。8年外飯を食べて晴れて入社された彼を「今、いろいろと社内の改革に取り組んでもらってる」と嬉しそうにご紹介をいただきました。
晩婚で、かつやっと生まれた長男さん。いくつになってもよほど可愛いのでしょう。ご子息が何を話されても目尻は下がったまま。どちらかといえば厳しいタイプの社長だったので、ちょっと意外な感じがしました。
一方で、同席された右腕の専務は無表情で、何を見られているのかじっとパソコンを眺められたまま微動だにされません。確かにあまり口数が多い方ではなかったのですが、それにしても暗い・・・
その理由は、すぐにわかりました。「今こんな状態になってるのはあんたのせいだよ」「あのときこうした方がいいって言ったじゃん」などなど、父親で、かつ社長に対する発言とは思えない言葉のオンパレード。にもかかわらず、言われた方は「そうだったか」「まあそういうこともあったな」と笑ってる。
尊敬し、信じてついてきた人に対する失望感と、これから支えていかなければならない者への怒りと絶望、そして将来を思った時のやるせなさ。そんな感情が、彼を無表情にしていたのだと思います。
辟易としながらも、40歳以上離れている息子と楽しそうにやり取りをする、来年古希を迎える父親を前に、その場では何もお伝えすることはできませんでした。
ご子息の考える社内改革案にいくつかの指摘とアドバイスを加えたところ、「こういう話をしたかった」といたく感動してくれたのを見届け、帰社してすぐに手紙に箴言を認めて彼宛にお送りしました。
後日、「よく指摘してくれた」とお電話をいただいた社長に、「気持ちはわかるが」と前置きした上で、「ああいう態度を許してはいけない。間違いなく社員さんの心は離れていく。いや、もうだいぶ離れて行ってしまっていると思う。今一度、家庭と会社の場の違いをわきまえ、互いの態度・言動を改めて欲しい」とお伝えしました。
東海地方の会社であれば、強引にでもご子息を千年経営研究会にお誘いしたのですが、残念ながらその願いはかないません。後日、改めて確認の電話を入れてみたいと思います。
ここまでのケースは稀だとは思いますが、家の中の会話を会社に持ち込んでいる親子は少なからずいるものです。それが社員さんにどんな影響を与えるか、経営者親子はよくよく認識しておく必要があります。
もし少しでも思い当たる節があるようでしたら、これを機に、一度ご自身の日頃の言動を見直す機会にしていただければと思います。