No.743 派無し
先日、ある方から「亀井さんから社長に伝えて欲しいことがある」との相談を受けました。
専務としてNO2の立場にある彼はまさに社長の忠臣で、社長の意向はすべて叶えようと尽力し、その態度・行動から社長の絶大なる信頼を得ています。
一方で、彼の課題は、社長に物申すことができないことにありました。「私に言われると社長がショックを受けるといけないので、亀井さんから言ってもらった方がいいんじゃないかと思って」と言いますが、もちろん、言えない自分への言い訳に過ぎません。
伝えて欲しいという内容は、社員からの社長への不満で、彼もその点は問題があると感じているとのこと。私もその社長のお人柄はよくわかっていますので、その点は同意できるところでもあります。
しかし、私から言ったところで所詮応急処置のようなもので、抜本的な解決をしようと思えば、常に諫言できる人が身近にいなければなりません。
そこで彼にはまず、本当のNO2になるための3つの条件をお伝えしました。
- 経営者に不足する優れた能力をもっていること
- 時々に発生する諸問題に対して、経営者に成り代わって対処できること
- 経営者の心情を己のものとしていること
中でも一番大切なのは「3」です。優れた能力をもっていたとしても、その使い道が経営者の期待するところでなければ意味がありませんし、どんなに問題解決をしたとしても、その結果が経営者の望むものでなければ、逆に手を出してもらわない方がまだましです。「1」「2」を有効足らしめるものは「3」であり、「3」なくして優秀なNO2にはなり得ないのです。
彼は「1」「2」は十分過ぎるほどできています。「3」についても、社長の意向を汲むという観点から言えば十分合格でしょう。しかしそれは「イエスマン」的なものであり、社長の心情を己のものとしているレベルには達していません。
「3」の実現のためには、「社長の考えていることは私の考えていること、私の考えていることは社長の考えていること」と言えるほどの徹底的な話し合いが必要です。
私はよく「話」を「派無し」と当て字します。「派」は「えだわかれしたもの」を意味します。それを無くす。それが話の本来の価値だと思うのです。
「それはそうなんですけど・・・」と渋る彼に私は、
「社員の代弁をしようとするから苦しくなる。どう言えばよいかわからなくなる。自分の言葉で伝えましょう。「私はこう思います」と素直に伝える。あなたと社長の関係であれば必ずわかってくれます。勇気をもってあなたの言葉で伝えてください」
とお伝えしました。
数分間の逡巡はありましたが、最後には「やはりそれしかないですよね。いやそれが一番大事ですよね」と覚悟を決めてくれたようです。結果の報告が楽しみです。
翻って、私たちも最も身近な人と本当に分かり合えているか、見詰め直してみる必要があるように思います。もし少しでも疑いの余地があるのであれば、腹を割った話をする時間を設けることをおすすめします。私も心掛けていきたいと思います。