No.747 工夫
先週に引き続き、千年経営研究会総会講演会から、第2部の基調講演「日本における今後の中小企業の経営環境と同族経営の強みとは」と題して登壇していただいたデービット・アトキンソンさんのお話をお伝えしたいと思います。
アトキンソンさんについては、多くのメディアで紹介されていますし、その著書もありますので、ご紹介は割愛させていただきます。
参考までに・・・ https://x.com/atkindm
時に「中小企業は要らない」といった過激な捉え方をされることもありますが、その真意は全く別のところにあります。
今回もさまざまなデータを駆使して中小企業を取り巻く環境の解説をしていただきましたが、彼が本当に伝えたいのは「労働生産性を高めなければ生き残ることはできない」という一点です。この点に関して私は、心からその通りだと思っています。
これまでも
- 中小企業は価格勝負をしてはいけない(安易な値下げに走るな)
- 「働き方改革」ならぬ「働けなくなる改革」の中、いかに少ない人員でこれまで以上の仕事ができるようにできるかが必要不可欠(生産性を高めよ)
- 人口減少の中、人を採用しようと思えば、給与を上げていくしかない。上げられるだけの稼げる体質を創る(財務体質を強化せよ)
などとお伝えしてきましたが、今回のお話はまさにそのデータ的根拠を示していただいたようなものでした。
彼は講演の中で何度も「暗い話ばかりで申し訳ない」と言われていましたが、今回の話の中で私は、明確な“光明”を見出すことができました。
それは『全要素生産性』というキーワードです。
講話の中で、『実質経済成長率』の解説がありました。G7の平均が2.1%に対して、日本は最下位の1.3%、1位のアメリカ3.0%の半分以下といいます。
しかしこれを構成する要素別にみると、『人的資本』は平均0.5に対して0.4、『物的資本』は平均0.9に対して0.8と、それほど大きな違いはありません。
ではなぜ成長率がこれほど低いのか。その理由が『全要素生産性』の低さなのです。
全要素生産性とは、実質経済成長率を構成する要素の一つで、労働や資本といった量的なもの以外の質的な要素を指します。直接計測ができないので、全体の変化率からそれ以外の要素を差し引いた残高として推計されるものです。
質的要素とは、“知恵”や“工夫”と言い換えてもいいでしょう。具体的に例示すれば、ブランド力、技術力、経営能力、人材育成力、研究開発力、コミュニケーション能力などなど。
これらは、物的資源の少ない我が国が世界第2位の経済成長を果たすことができた原動力そのものであり、世界で最も優れていた“天下の宝刀”ともいえるものたちだったはずです。一体なぜ、いつからこれらの美点を失ってしまったのでしょうか。
よく考えてみれば、まさに知恵と工夫で戦後復興を支えてくださった方々は、戦前教育を受けてこられた方。その方々の功績で世界に感嘆される結果を残してきた我が国を、「従うことが美徳」とする戦後教育を受けてきた我々が地に落としてしまった、そう考えていいように思うのは、私だけでしょうか。
しかし今回、「知恵と工夫で会社は良くなる!この国はもっと良くなる!」ことを教えていただきました。全要素生産性のG7平均値0.8に対して日本は0.2。少なくとも4倍の可能性を秘めているのです。
知恵と工夫には、金も力も要りません。ないもの尽くしの我々中小企業でも十二分に戦える土俵の上にあります。
ぜひこの力強いメッセージを胸に、諦めることなく、他責にすることなく、自らの知恵と工夫でこの難局の中で成長し続けて参りましょう。そして後に続く者たちが、心から継ぎたくなる会社を残していきましょう。